これからの公園の可能性についてさまざまなゲストと議論していく「KPBライブトーク」。2021年3月末の『KAKAMIGAHARA PARK BRIDGE(通称:KPB)』オープンに向けて、建設現場から9回にわたって配信していきます。第4回のテーマは「アート」。子どもにとってのアート体験って、何がいいんだろう?公園でアートができる?そんなことをゲストの2人に語ってもらいました。
KPBではどんなアート体験ができるといい?
ヒトノネと言いまして、岐阜市で民間の学童をやっています。小学生向けに放課後・夏休み・春休みなどに体験活動を行っています。地域の自治公民館を借りて実施しているんですが、新聞で立体造形を作ったり、陶芸教室の先生に来てもらったり。市民の方に講師として来てもらって、その方たちの技術に触れるといったことをやっています。
色んな人が来て多種多様な体験ができるんですね。
“本物を体験させたい”というのが一番の願いで、大人も本気でやっています。
僕は完全貸し切り・完全予約制の 陶芸教室ちゃわんむしを運営しています。小さいお子さんから陶芸を本気で学びたい方まで、マンツーマンで陶芸を教えています。僕自身は京都造形芸術大学の出身で、そのときは現代美術をやっていました。
これは僕が作った器に、ドライフラワーの花を生けるという共同展示を一昨年に行ったものです。陶芸もドライフラワーも、水分が抜けていって作品になるということが共通しているので、何かおもしろいことができないかということで展示を行いました。
ありがとうございます。今日は2人にお伺いしたいことがありまして、KPBができたらアートラボ(アートを教える教室)をやろうと準備をしているんですが、これといったことをまだ決め切っていない状態なんです。「どうしたらその場所をおもしろくできるのかな?」ということを今日は聞きたいです。
以前、森のわくわくの庭でイベントをやった際には「オーブン陶土でジオラマを作ろう」ということをやったんですが、子どもにとっては結構難しくて。ああでもないこうでもないとやって、でき上がったものは悲惨な状態だったんですが(笑)、それでもいいかなと思います。やっている過程でああしよう、こうしよう、と考えていたことが大事で、何より子どもが楽しんでいましたからね。
ただ、KPBでは見本・完成形はない状態でまたやってみたいなと思っています。粘土をただひたすら積み上げる、何で積むのかは自分で考える、誰が一番高く積み上げられるか、とか。あとは、五感を使った陶芸をしたいなと思っています。目隠しをしたりヘッドホンをしたり、利き手だけでやったり。講師としてどうなるかわからないけど、やってみようかなと。やりっぱなしになっちゃいそうですが(笑)。
“やりっぱなし”っていいと思います。無作為のほうが楽しいですよね。子どもって遊びの天才なので、大人が想像することよりもはるかに先を始めちゃうというか、しでかすじゃないですか(笑)。
やっちゃってますね(笑)。
そこにマテリアルがあればよくて、大人があんまり関与しない姿勢、やりっぱなしというのが大事な気がしますね。
アートラボをやるときに“子どもたちが思うままにやる”ことを大事にしたいなと思っています。何か意図的に完成形を見せるというのはやりたくなくて。先生もどうなるかわからないことを、熱中して一緒にやるという体験ってあんまりないなと思います。色んな体験講座を見ていても魅力を感じなくて。「何分で何ができます」というのが始めから見えているのは、あまりおもしろくないなと思っています。
子どもが熱中している様子を見ると、完成形がない方がおもしろいんですよね。よくわからないことをやりながら、感覚的におもしろかったという経験を積み重ねていくとおもしろい大人になれるんじゃないかなと思います。
子どもって先週やったことをもう忘れてしまうので(笑)、発展性を伸ばすためにもプロセスを大事にしたいなと思います。大人は「先週作ってたものが途中だから続きを作ろうかな」ってなりますけど、子どもは大体違う遊びをするんですよ。
例えば、壁に何かしらのプロセスが貼ってあると、子どもを迎えに来たお母さんが「今日こんなことやったんだね」と家に帰って発展させることができますよね。プロセスを見える化しておくというのはいいなと思います。実は「レッジョ・エミリア」という、イタリアの都市で行われている幼児教育はプロセスを見える化した教育をしていて、発展性があるかもなあと思います。
子どもってすぐ忘れるし、2日前のことも昔って言ったりしますよね(笑)。子どもたちが思いついてやったことが前回とこれだけ違うよ、というプロセスを見せてあげるだけで違ってくると思います。
子どもって自分がやったことをうまく説明できないので、プロセスを見せられると可能性が広がりそうですよね。
アートから学ばなくてもいいんですけど、親の役目としては“生きる力”に変えてほしいなと思います。例えば食育を体験したら、家に帰ってお母さんと一緒につくってみるとか。経験が再現できるといいですよね。
子どもが家に帰ってきたときに、その日体験したことを話してくれるんですけど、それを聞くのが好きで。子どもが感覚を揺さぶられたときの話っておもしろいんですよね。
生きる糧になるアート。経験をたくさんストックしよう!
アートって言葉、敷居が高いですよね。崇高なイメージっていうか(笑)。 でも、“気づき”というか 日常にある小さなきっかけを見つける作業がアートかなと思います。
ヒトノネでは子どもの経験のストックを作ることを大事にしています。いつどんな気づきを得られるかはわからないんですけど、生きる上で糧になるんですよね。経験をストックするという点で、アートは役に立つだろうなと思います。
アートって聞くと敷居は高く感じると思うんですけど、そこにある“本質をつかむ” “気づく”というところがアートの持っている力だと思います。でもそれっていつ気づくかわからないんですよね。そういう気づきがあるかないかで、人生の味わいが変わってくるんじゃないかなと思います。
アートやデザイン、クラフトとかって、言葉で仕分けできると思います。僕らが言っているアートって“生み出す”ことじゃないですか。結局大人になって好きなのって5教科以外だなって最近思うんですよね。美術、音楽、体育。そういうのが人間の楽しい、嬉しいと思うところなのかなと。
図画工作や体育の先生は、生徒を評価するの大変だなあと思います。
見る人によって評価は変わっちゃいますよね。
私からすると“人生を豊かにする教科”であって、評価はいらないでしょって思っちゃいます(笑)。
楽しんだもの勝ちですよね。
人それぞれぐっとくるものって違うと思うんですよ。それを数値化するのは難しくて。その人にいかにつながるかというのは人それぞれ違いますよね。
教師にとってもハードルが上がりますよね(笑)。
生み出すこと、作ることを大事にしてほしいなと思っています。そのプロセスで色んなことを考えたり、くじけたり、作れなかったり、誰にもいいねって言ってもらえなかったり…とか。でも誰かに助けてもらえたとか、人に頼ったらできたとか、そういう経験ができるいいきっかけだなと思います。
この新聞の作品は、新聞1枚を棒にして立方体を作っていくんですが、これって1人じゃ作れないんですよ。2人で両端を持ってやらなきゃいけない。誰かがテープを持っててくれなきゃいけない。みんなで協力してやっと作れる作品なんですよね。1人で表出する作品と、みんなで作る作品の両方を経験できる場があるといいなと思います。
ものを作るって1人でジっとしてやるものだけじゃなくて、人と話したり、一緒にやったりすることでひらめきが生まれることもあると思うんです。今回のKPBでのアートラボも、マンツーマンではない形を考えています。
この新聞紙の作品って、自分より大きいものを作るっていうのがいいですよね。どんどん自分の殻が破けるというか、イメージが広がるような気がします。
そういう意味で広い場があるのはいいですよね。KPBは外の公園も活用できるのがいいです!
大人も子どももハマる、アレ
この場所は大きな2つの公園に囲まれているので、使えるものって探そうと思えば色々あると思うんですけど、どういうことをするとおもしろそうですかね?
木の枝、葉っぱを拾って、「マインクラフト ※」っていうゲームみたいに、葉っぱを細くして紐をつくるとか。その素材だけでものを作る、みたいなことができるとおもしろそうだなあと、ふと思いました。
※「マインクラフト」とは
通称マイクラ。世界中で大人気のゲームで、3Dブロックでつくられた仮想空間の中で道具や建物をつくったり、そのフィールド内で冒険ができたり、自由に遊ぶことができます。
今、ちょうど銀杏並木のイルミネーションが見えるんですけど、子どもたちとイルミネーションを作ったらおもしろいなと思いました。
あと話が変わるんですけど、大繩って絶対いいんですよ!やってると、近所の子どもたちが入ってくるんですよね。開かれているっていうのが大事だと思います。公園だもん。参加しやすさという部分はデザインしなきゃいけないなと思います。気軽に入れる、参加できるという感覚が持てる部分を作為的に作ってもいいかもしれないです。
大繩を作ってもいいかもしれないですね(笑)。
ここにある素材を使って大繩を作るって、できなくはないですよね。
やばそう(笑)。でも絶対楽しい!誰でも入れる、通りがかった人も気軽に入れる、というのがあると、公園ならではでいいですよね。
うちの子どもたちもボール遊びとかしてると、勝手に色んな子たちが混ざってるんですよね。KPBでも、開かれた場所だからこそできることを考えていったら、おもしろそうですよね。
基地とか作っちゃダメなんですかね?公園で(笑)。
基地って好きですよね、子ども。
大人が作る本気の秘密基地も見てみたいですよね。
公園の池で釣りしたりとかは?
ザリガニとか連れますよ。落ちてる木の枝に糸を引っかけて、先にスルメつけて。コツはいるんですけど、結構釣れますよ。
そうなんだ!それはおもしろいなあ。
夏とか、結構必死になってやってます(笑)。
公園は本当に資源が豊富ですもんね、木、草、葉っぱ。
銀杏並木だから銀杏がとれるし、茶碗蒸し作るとか?
茶碗蒸しを食べるための器を作るとか。
窯が欲しくなりますね。
原理は簡単だから、そういう道具を作ってみるのもありですよね。
そこで難しいのは、大人は経験があるから色々アイデアが浮かぶんですけど、子ども自身のアイデアが浮かぶように引き出す、先導するというのが難しくもあり、楽しいポイントかなと思います。
窯をまったく知らない状態で、窯を作らせるとかもおもしろいかもしれないですね(笑)。
森や公園って潤沢に資源があるから、色んなことができそうですね。その中でアイデアを膨らませて、大人もいかに一緒に遊ぶか、というところを進めていくとおもしろくなりそうですよね。
関わってくれる人を増やしていくのもいいですよね。子どもたちが窯を作ってみて、そこに本気の窯職人が来たら「すっげー!」ってなると思います(笑)。そこで大人の本気を見せて、「これがプロなんだ」「こういうのも仕事になるんだ」と感じると思います。
大人が本気を見せたときに、子どもの海馬に記憶が残るような気がしますね。
さっき「マインクラフト」の話が出たんですけど、うちの息子が気になってて欲しいって言ってたので、まず自分が体験してみようと思ってやってます。「お父さん、剣作って」って言われて本気出してダイヤの剣とか作ってあげると、「お父さんやっぱすごいね!」って(笑)。
僕はマインクラフトで自分の家のシミュレーションを作りました(笑)。
ヒトノネではゲームをやらないってルールがあるんですけど、マイクラが好きでどうしてもやりたい子がいて、椅子とか段ボールを並べたりして、リアルマイクラを始めて(笑)。子どもたちはマイクラの世界にすぐ入れるんですよね。
ある意味バーチャルリアリティーですよね(笑)。
マイクラやりながらすごいアートだなと思って。子どもが作ってるのを見て感動して泣きかけたこともあります(笑)。子どもって想像する天才だから、そういう部分をちゃんと残して育っていくとおもしろいですよね。
つくること、見てもらうこと
今は情報に触れる機会がすごくあるので、アウトプットが重要ですよね。
アウトプットする力を育てるのは、学校だけじゃ足りないんだろうなと思います。アウトプットするのって、恥ずかしいし、子どもはシャイだし、表出することに慣れてないんですよね。
経験値がないとその世界に飛び込むのに躊躇しちゃいますよね。気づいたら没頭しているぐらいがいいですけどね。
アイデアを出して受け入れられる、何か言ってもらえるという経験があると、自信のなさが克服できるのかなと思います。子どものころに“表出する”という経験はさせたいですよね。
レスポンスが大切ですよね。やりっぱなしでもいいけど、周りの反応も大事だなと。僕は「音楽がだめだね」って子どものころに言われたことがあって、だめだと思い込んでいて。でも大人になった今音楽が好きだし、ギターも弾くし。
反応するやり方も色々あるなと思っています。私は家で、子どもたちが作ったものは壁に貼るようにしています。「見てるよ」という証になるなと。
何かしたときに親は1回は反応する、っていうのは大事ですよね。
公園で展示をすると、より色々な人がレスポンスしてくれると思うんです。「貼ってあるから見に来てよ!」ってお孫さんに言われたら、おばあちゃんはきっと見に来ると思います。
公園は開かれた場所だからやりやすいですよね。美術館だと心理的なハードルがあって。公園で作ったものを家に持って帰るとか。自分が作ったものって本人もよくわかってないから、自分の中でもフィードバッグしていけると世界が広がっていきますよね。
学びの森公園は遊具が少ないから、自分で遊びを考えるでしょうね。
展覧会も子どもたちが作ると、おもしろいかもしれないですね。
一度やったことあるんですがめちゃくちゃおもしろかったです。子どもたち10人ぐらいに好きに飾ってと言って、絵の上に絵を飾るとかめちゃくちゃカオスなんですけど(笑)。「なんだこれ?」と思いながらも感動しちゃいました。そういうのも絡めてここでやっていけるとおもしろそうですよね。
なぞなぞとか作ったりしそう。探さないと見つけられない展覧会とか、できそうですね。
ここは広い場所を使って何かやるということができる環境だと思うのでいいですよね。
「岐阜市展」(子どもを対象とする作品展)は今年オンラインになっちゃったんですけど、息子の陶芸作品が展示されることになって、「これ生で見たかったなー」と思いました。オンラインになったのは密を避けるためだったんですけど、「公園とかもっと広い場所でやれば開催できたんじゃない?」と思ったり。「あの木の下に陶芸作品があるから見つけよう」とか、できたんじゃないかなって(笑)。
重みや存在感は、カメラ越しだと伝わらないですよね。
立体物だと360度見ないとわからないですもんね。一面だけだと質感がわからないですし。
子どもにとって、生で鑑賞するという機会がなくなっちゃったのでそれはちょっと残念でしたね。
そういう意味では、公園でやるというのはいいかもしれないですね。
工夫して、やれる方法を探していくのが大人の仕事だと思うので、子どもの可能性をどんどん作って行けるといいですよね。
今日は意図的にまとまらない話をしたくて、僕もMCというよりはまとめなかったんですけど(笑)、 お2人から色んなアイデアをいただけて良かったです。ありがとうございました。
第3回
第5回